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2000年頃から、チップセットのサウスブリッジ(I/Oコントローラ)にAC'97 Audio Codecなどのサウンド機能が組み込まれることが一般的になりました。それに加えて、ビデオコントローラの機能までがノースブリッジ(CPU/AGP/メモリコントローラ)に組み込まれたものは、統合型チップセットと呼ばれます。このような、チップセットに統合されたビデオコントローラの性能は概してあまり高くはなく、最新の3Dゲームなどを満足に動作させるには力不足でした。
一方CPUについていえば、Athlon、そしてPentium4と、DDRやQDRによりFSBの帯域幅が大幅に上昇する時代が到来しました。当時まだ主流だったPC/100やPC133のSDRAMではその帯域幅に対して転送能力が不足であり、充分な転送能力を持つメインメモリの登場が待ち望まれていました。ひとつの選択肢としてDirect RDRAMを多チャネル化する方法がありましたが、SDRAMと比較すると導入コストが非常に高価であり、さらにIntel製のチップセットでしかサポートされないなどの理由で、あまり普及が進んでいなかったのです。また、多チャネル化してメモリのビット幅を広げることにより広帯域化を行う方法は、SDRAMのようなもともとビット幅が広く電気信号が安定しない方法では難しいといわれていました。それがIntelとRambusがDirect RDRAM戦略を強力に推進していた理由でもありました。
当時、多くのチップセットではサウスブリッジとノースブリッジの接続は32ビット/33MHzのPCIバスにより行われていました。32ビット/33MHzのPCIバスの帯域幅は133MB/sということになります。たとえばI/O周りでは、IDEの規格の主流がUltra ATA/66やUltra ATA/100へと移り、さらにIDE-RAIDの流行など、IDEインタフェースに関する部分だけでもPCIバスの帯域の大部分を消費してしまうことになってしまったのです。もちろんPCIバスに接続されるデバイスはIDEコントローラだけではなく、チップセットに内蔵されたサウンドやネットワークの機能、さらには拡張カードなどもPCIバス上に存在することになります。IEEE1394やUSB2.0などのやや広帯域なデバイスの普及も見え始めた時期であり、PCの大動脈としてのPCIバスの負担は大きくなるばかりで、その能力が限界に達する日も遠くはないと思われていました。
ところが2001年の初頭、ビデオチップの覇者NVidiaから、以上に述べたような問題のすべてに解が用意されているチップセットが発表されました。それが、nForceです。
実際の登場は年末になりましたが、nVidia初のPC用チップセットとして、その内容は充実したものでした。
このnForceというチップセットには注目すべき点が多いのですが、まずはPCの歴史に非常に重要な影響を与えた可能性があるTwinBank Memory Architectureについて触れることにしましょう。前述のように、1モジュールあたりのビット幅が64ビットのDDR SDRAMに対し、当時16ビットと、高クロックを実現するために最初から狭いビット幅を採用していたDirect RDRAMは、多チャネル化も容易で帯域幅を広げやすいといわれていました。逆にいえば、DDR SDRAMでは高クロック化の限界も見えているといわれ、さらに多チャネル化も容易ではないというのが定説でした。ところが、その定説はnVidiaの手により覆されてしまったのです。nForceではPC2100 DDR SDRAMの2チャネル化を実現し、理論上約4.2GB/sのメインメモリ帯域幅を確保することが可能です。
nForceはAMD Athlon XP/Duronに対応したチップセットです。nForceの登場時、Athlon XPのFSBは266MHzでした。Athlon XPのFSBに合わせた帯域幅を確保するというだけなら、PC2100 DDR SDRAMの1チャネル動作でも可能です。しかし、nForceのIGP(従来型のチップセットではノースブリッジに相当)にはGeForce2 MX相当のグラフィック機能が内蔵されているため、内蔵グラフィックコントローラを利用する場合にはメインメモリの一部をビデオメモリとして利用することになります。そのため、PC2100 DDR SDRAMの1チャネルではCPUに対する転送とビデオメモリとしての利用でメインメモリ帯域を奪い合うことになり、性能が低下してしまいます。実際に従来の統合型チップセットでは、内蔵されるビデオコントローラの性能そのものの低さもさることながら、メモリ能力の不足による性能低下という問題がありました。しかし、メインメモリ帯域幅に余裕があるnForceチップセットでは、その問題を解決しただけでなく、廉価版のGeForce2 MX相当ながら、外部AGPビデオカードを増設することに匹敵するパフォーマンスを実現したのです。GeForce2 MX相当では物足りない場合にも、外部AGPスロットを利用することができるため、さらに高性能なビデオカードを利用することも可能です。
TwinBank Memory Architectureは単純に内蔵グラフィックコントローラの性能向上に貢献するだけのものかといえばそうではなく、実はもっと重要な意味があります。それについては最後に述べることにしましょう。
上にPCIバスの性能に限界が見え始めたという話を書きましたが、それは32ビット/33MHzのPCIバスの話です。PCIバスの規格には64ビットや66MHzのものもあり、仮に64ビット/66MHzのPCIバスを利用すれば、その帯域幅は533MB/sということになります。しかし、実際にはコンシューマ向けのチップセットで64ビットや66MHzのPCIバスが利用されることは少なく、それらをサポートしているものの多くはサーバ向けのチップセットやマザーボードが中心でした。PCIバスには多数のPCI機器が接続されるため、nForceの登場時、すでにチップ間接続にPCIバスを用いる方法は主流ではなくなっていました。Intelはi8xxチップセットでハブアーキテクチャを導入し、各ハブ(ノースブリッジやサウスブリッジ等に相当)の接続に266MB/sの帯域幅を確保していました。また、VIAも同様にV-Linkという名称で266MB/sの帯域幅を確保していました。チップ間接続の方法としてnVidiaが選んだのは、AMD他が策定したHyper-Transportでした。Hyper-Transportは柔軟な設計によりいくつかのバス幅や駆動クロックを選択できるのですが、nForceでは、800MB/sのものが採用されました。ハブアーキテクチャやV-Linkの266MB/sは充分ではあるものの、PCIバスの倍でしかありません(実際には倍以上の効果はありますが)。その点、800MB/sのHyper-Transportは余裕の設計といえるでしょう。
nForceの評価すべき点は、発表から時間はかかったにせよ、製品の段階で予定していた機能を確実に実装していることにあります。特にDDR SDRAMの2チャネル動作の可能性については、疑わしく思っていた人も多かったのではないでしょうか。しかし、確かにそれは実現されました。
nForceはAthlon XP対応のチップセットなのですが、ここで少しPentium4に目を向けてみましょう。Pentium4のFSBはQDRで、システムクロックが100MHzなら400MHz,133MHzなら533MHzになります。このFSBに遜色のない転送能力を得ることができるメモリとして、一時はDirect RDRAMが唯一の解であると思われていました。しかし、nVidiaはnForceにおいて、実現が困難だとされていたDDR SDRAMの多チャネル化を実現し、それがDirect RDRAMの専売特許ではないことを証明してしまったのです。
ここで少し憶測を交えた話になりますが、nForceがAthlon XP用のチップセットとなった背景には、IntelからPentium4用チップセットのライセンスを得ることが困難だったからであると考えられます。nVidiaにはnForce以前にMicrosoftの家庭用ゲーム機であるXbox用のチップセットを作った実績があり、そのCPUはPentiumIIIのL2キャッシュ削減版相当であるといわれているため、Intel製プロセッサ用のチップセットを提供する意思が全くなかったとは考えられません。訴訟問題に発展したVIAのPentium4用チップセットApollo P4X266では、Intel側が要求した契約内容に、Pentium4バスを利用したCPUを開発しないというものがあったためVIAは同意できず、ライセンス契約を締結しないまま販売に踏み切ったといわれています。nForceにおいて、似たような事情でIntelとnVidiaの間に結ばれるべき契約が成立しなかったということも充分に考えられます。
Intelは当初、Pentium4用のメインメモリとして、性能を求めるならDirect RDRAMが最善であるとの姿勢を固持していました。しかし、途中からの方針転換によりDDR SDRAMをサポートすることを決定します。しかし、当時標準的になり始めたPC2700 DDR SDRAMをもってしても、Pentium4の400MHzや533MHzというFSBによって実現される帯域幅にはやや力不足でした。そういう意味では、Pentium4の性能を最大に発揮するためにはDirect RDRAMが必要であるということは間違いではなかったのです。ところが、2002年後半、Intelは皮肉なことに、自らの手で、Pentium4対応メインメモリとしてのDirect RDRAMに引導を渡すことになります。それは奇しくもここで語ってきたnForceと同様の、266MHz相当のDDR SDRAMを2チャネル化するという手法によるものでした。それを実現したチップセットはGranite Bay、すなわちE7205です。かつてDirect RDRAMを推進してきたIntel自らの手で、Direct RDRAMでなければ困難だといわれていた多チャネル化をDDR SDRAMで実現してしまったのです。Direct RDRAM戦略が失敗してしまった以上、それはいずれは行われていたのかもしれません。ただ、nForceの存在がなければE7205の登場はもう少し遅くなっていたのかもしれない、というのは考えすぎでしょうか。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Codename Crush/nForce | |
| IGP(Integrated Graphics Processor,ノースブリッジに相当) | |
| プロセッサバス | EV6,200/266MHz |
| CPUソケット | SocketA(Athlon/Athlon XP,Duron) |
| メインメモリ | PC1600/2100 DDR SDRAM最大1.5GB |
| AGP | AGP2.0 2X/4X 1.5Vのみ |
| チップ間接続 Hyper-Transport(800MB/sec. MAX) | |
| MCP(Media Communication Processor,サウスブリッジに相当) | |
| IDE | Ultra ATA/100 |
| Sound | AC'97 Audio Codec 2.1 |
| USB | 最大6ポート |
| その他の機能 | TwinBank Memory ArchitectureによりDDR SDRAMの2チャネル動作、128ビットアクセス可能 |