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CyrixはNational Semicondoctorに見放された後、チップセットメーカーのVIAに買収されることになりました。同じ時期にVIAはWinchip C6というSocet7互換CPUを作っていたIDTのCPUデザイン部門(Centaur Technology)も買収しているため、VIAがCPU市場にまで手を広げるらしいという話の信憑性は急激に高まりました。
VIAは当初、Cyrixが開発中だったP6バスの次世代コアを用いてCeleronの対抗製品を出荷する予定でした。Joshaというコードネームで呼ばれていたこのコアはMIIをベースとして133MHzのFSBや3D Now!に対応、256KBの2次キャッシュを内蔵するなどそれなりに意欲的な仕様で、400MHz駆動(133MHzx3)ではPR533と、Cyrixらしく整数演算に関しては高性能なものになる予定でした。しかし、一旦は発表されたものの、この製品は発売されないままキャンセルされました。
このコアが発売されなかった理由は、PR値は高かったものの、実質的な駆動周波数は高くできなかったためだと思われます。また発表から出荷されないまま時間がたちすぎたということもあったのでしょう。実際にはCyrixIIIは、CentaurTechnologyが開発していたWinchip C6の後継コアを用いて発売されました。Centaur Technologyが開発していたSamuel1というコードネームのこのコアは性能には見るべき点はないのですが、高クロックを実現できる点と消費電力が少ないという点において、Joshaよりも優れていました。クロック当りの性能では他社製品よりも優位性がなかったため、Samuel1コアのプロセッサはP-Rating表記ではなく、実クロック表記になりました。このWinchip C6というプロセッサの設計思想はCyrixのプロセッサとまるで正反対の方向を向いているため、そのままの形で両者を統合することは不可能だったと思われます。
VIAが最初に発表したロードマップでは、まずCyrixIIIとしてJoshaコアの製品を出荷し、その後動作周波数の上昇に伴い、後継としてSamuel1、Samuel2という順で出荷していく予定でした。しかし実際には本来の意味でのCyrixIIIは日の目を見ることはなく、構造的には全くの別物であるSamuelコアにCyrixの名が冠されることになったわけです。Joshaに関しては旧Cyrix時代の技術者が多く退職してしまったためプロジェクトが空中分解したという説もありますが、真偽の程は定かではありません。そういう意味では、Cyrixは最後までCyrixらしかったといえるでしょう。
VIAがCyrixIIIのコアを変更した背景には、AthlonとPentiumIIIの熾烈なクロック競争がありました。Athlon登場の以前と以後では、x86CPUの駆動周波数の上昇ペースには明らかな違いがあります。ハイエンドCPUのクロック上昇ペースに合わせ、ローエンドのCeleronも順調に駆動周波数を上げていきました。そういった状況の中で生き残るためには、性能はともかく、見かけ上の駆動周波数の高さは必須だったといえるでしょう。
Samuel1の性能はどの程度かというと、Celeronの対抗製品と考えるなら、まるで話にならないレベルであるとしか言いようがありません。FSB133MHzや3D Now!に対応など、スペック的には優れているのですが、整数演算性能でも同クロックのCeleronには遠く及ばず、浮動小数点演算性能に至ってはFPUがハーフスピード(クロック周波数の2分の1)で動作しているという仕様であるため、見るも無残なのものでした。Samuel1は128KBのL1キャッシュを持っていましたが、L2キャッシュは備えていません。一説には2次キャッシュを備えていないことが整数演算能力の低さの原因ともいわれていましたが、64KBの2次キャッシュを統合したSamuel2においても同クロックのCeleronに追いついていないため、コア自体の性能がその程度のものであると考えた方が妥当でしょう。
ではCyrixIIIがターゲットとしていた市場はどこなのかといえば、価格的にCeleronよりもさらにローエンドの領域です。Cyrixは以前、MediaGXという6x86ベースの統合型CPUを持っていました。これはチップセットのノースブリッジの機能やグラフィック機能、サウンド機能までを統合したプロセッサです。このようにCPU内部にさまざまな機能を統合して部品点数を減らすと、システム全体のコストを下げることができます。このような構成をとったMediaGXの目的は、ローエンドのさらに下となる市場を掘り起こすことでした。その流れを汲むというわけでもないのでしょうが、VIAがターゲットとして想定していたのは正にこの市場です。この価格帯のPCはインターネットが主要な用途であり、処理能力が問題になることはあまりありません。処理能力的にはWebブラウザが快適に動けばあとは回線速度の問題になるため、それほど高いCPU性能は必要ありません。したがって、処理能力はそこそこでも安価なCPUを用意して、インターネットが主目的のユーザーを購買層に想定したPCを売るというビジネスには、成功のチャンスが多くあったといえるでしょう。VIAはCyrixIIIの発売以前、かなり早い段階からこの市場に目を付けていて、CyrixやCentaur Technologyを買収した背景には、このようなことがあったと思われます。
結果としては、初代CyrixIIIは国内では成功を収めることはできませんでした。まず国内ではメーカー製PCにおいてはブランド力が重視されるため、PCにさほど詳しくない一般の人に、Cyrixなどという得体の知れないCPUを搭載したPCを売ることは非常に困難だろうと容易に想像できます。したがってCyrixIIIを搭載したPCが大手メーカーから販売されることはほとんどなく、買い手があるのはほぼ組み立て市場のみということになりました。その組み立て市場でも、CyrixIIIは思わぬ伏兵によってその存在意義を危うくさせられてしまうことになります。
VIAの発表では、CyrixIIIはSocket370のマザーボードならばすべて動作可能であるということでしたが、現実はそうではありませんでした。BIOS側の対応が必要なのはやむを得ないことにせよ、CyrixIIIに対応と銘打ってあるマザーボードでも相性によって動作しない場合があり、確実な動作という基準から見れば、あまり積極的に選びたい製品ではありませんでした。これが組み立て市場におけるひとつの問題ですが、それ以上に影響が大きかったのは、AMDのDuronの存在です。
AMD DuronはAthlonの廉価版という位置付けの製品ですが、その性能はPentiumIIIに匹敵するともいわれている、非常にコストパフォーマンスの高いCPUです。発売当初でこそ700MHzで2万円を超えていたDuronの価格ですが、登場からしばらくすると急激に値下がりが始まり、600MHzと650MHzに至っては、5,000円台で入手できるようになりました。同じ頃CyrixIIIの価格は8,000円近かったので、CPU単体の性能を考えれば、CyrixIIIはコストパフォーマンスにおいて、決定的に不利となってしまいました。Socket370とSocketAということで、プラットフォームが異なるため、両者は競合しないという見方もできます。しかし、実はCyrixIIIとDuronは大いに競合する製品だったのです。その理由はマザーボードにあります。前述の通り、CyrixIIIを動作させるにはマザーボードのBIOSの対応が必要です。しかも、FSB133MHzのものを利用するには、マザーボードが対応していることも必要です。古いマザーボードではCyrixIIIはサポートされないことも多く、すでにSocket370マザーボードを使っているユーザーも、CyrixIIIを利用するためにマザーボードを買い換える必要が生じる可能性はかなり高かったのです。となれば、安価にそれなりの性能を持ったシステムを作ろうと考えるユーザーが、マザーボードの買い替えを機会にDuronに流れても不思議はなかったのです。
したがって初代CyrixIIIは組み立て市場においても人気がなかったのですが、夏が近づき、気温が上がってくるにしたがって、発熱の少なさが注目されるようになりました。もともと構造が単純でトランジスタ数も少ないため、1GHzクラスのCPUの登場と前後して主流になった強力なCPUクーラーの騒音に頭を悩ませていたユーザーの中には、貧弱な冷却でも動作させることができるという利点に魅力を感じる人も少なくありませんでした。その利点を生かして、CyrixIIIをCPUに用いた常時稼動のサーバーを作ることが流行しました。
その後、Samuel1コアのCyrixIIIがたいした実績を残せないままに、64KBの2次キャッシュを統合したSamuel2コアの新製品が投入されることになりました。それを機会に製品名もCyrix3からVIA C3と改められ、駆動周波数の末尾に"A"が付くようになりました。CyrixIIIが世に出てからかなりの時間が経過したため、全体的にVIAプロセッサの価格も落ち着いてきました。それでもDuronの低クロック品などと比較するとコストパフォーマンスが優れているとはいえません。しかし、性能が重視される組み立て市場において、C3は性能ではない部分の長所で独自のポジションを獲得しつつある稀有な製品です。
VIA C3は直接的にはWinchip C6の流れを汲む製品です。CyrixIIIから名称が変更された理由もその辺りにあるのではないかと思われるのですが、現代の市場の要求に応えられるだけの性能を実現できなかった以上、Cyrixの作ってきた流れが消えてしまうのもしかたがないのかも知れません。しかし、このままあのCyrixの血統が消滅してしまうというのも寂しい話です。いつか両者を買収したVIAの手によって、Winchip C6の進化形とMIIの進化形が融合した新しい形のプロセッサが生み出される日は来るのでしょうか。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Codename Josha,Samuel1(C5A),Samuel2(C5B)/CyrixIII and C3 | |
| 動作電圧 | Vio 3.3V,Vcore 1.9V(Samuel1),1.5V(Samuel2) |
| FSB | 100/133MHz |
| L1キャッシュ | 64KB Instruction,64KB Data 4-way set associative(both) |
| L2キャッシュ | None(Samuel1),64KBフルスピード(Samuel2) 4-way set associative |
| 特殊命令 | MMX,3D Now! |
| 命令デコード形式 | 調査中 |
| パイプライン | 12段 |
| 実行ユニット数 | 調査中 |
| 製造プロセス | 0.18μm,0.15(0.13μm) |