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CrusoeはTransmetaというメーカーによって開発されたx86互換CPUで、2000年1月に発表され、同年の中頃にCPUとしてこれを搭載したモバイルPCが各メーカーから発売されました。最大の特徴は、省電力を主眼に置いた設計がなされていることです。トランジスタ数が少ないため消費電力および発熱が少なく、高クロックの製品でもファンレスでの運用が可能な、従来とは異なった方針で設計された新しいタイプのマイクロプロセッサです。
技術的な観点において、Crusoeはふたつの興味深い面を持っています。ひとつはx86プロセッサとの互換性をソフトウェアによって実現していることであり、もうひとつはLongRunという省電力技術です。この2点について、少しだけ触れることにします。
純粋なx86互換プロセッサではなくハードウェア的にはx86プロセッサとの互換性を持たないCrusoeは、素の状態ではx86命令を実行することはできません。このためx86用プログラムの動作にはCode Morphingと呼ばれるソフトウェアが必要で、起動時にROMからこのソフトウェアをメインメモリにロードする仕様になっています。余談ですがCode Morphingのために16MB程度のメモリを消費するため、たとえば128MBのメモリを搭載していてもOSやアプリケーションが使えるメモリは112MBに制限されます。これ以外の点においてはシステム起動後の動作は純粋なx86互換プロセッサと違いはなく、OSレベルから見れば、完全なx86互換プロセッサに見えるようになっています。ソフトウェアにより互換性を実現するというこの仕様により、Code Morphingソフトウェアを変更すれば、非x86プロセッサと互換性を持たせることも理論的には可能です。現在のところx86以外のプロセッサに対応したCode Morphingソフトウェアの予定はないようですが、今後そういった話が出てくることも期待できます。また、登場からかなりの時間が経過した現在ではx86用のCode Morphingソフトウェアのバージョンアップが行われ、パフォーマンスが向上したとTransmetaは発表しています。
また、Crusoeは最初からモバイル用CPUとして設計されていたため、省電力のために当時としては画期的な機能を備えていました。それが、駆動電圧と駆動周波数を負荷に応じて動的に変更するLongRunです。LongRunはプロセッサに対する負荷に対して適切な動作周波数とコア電圧を自動で設定し、最大限のバッテリー駆動時間を実現するように働きます。似た技術としてIntelのSpeedStepテクノロジがありますが、ACアダプタの有無で2段階の切り替えしか行わないSpeedStepとは、積極的に徹底した電源管理を行うという点で大きな違いがあります。
Crusoeの登場がx86プロセッサ業界に与えた影響は決して小さくありません。例えば、IntelはCrusoeに対抗するため、超低電圧版PentiumIIIという製品を出荷しました。超低電圧版PentiumIII/600MHzを例に挙げると、このプロセッサはSpeedStepにより600MHzと300MHzの駆動モードを持ち、ACアダプタ使用時の600MHzでは1.1V、バッテリー駆動時には300MHz/0.95Vで動作します。それ以前に低電圧版PentiumIIIという製品があり、高クロック時には1.35V、低クロック時には1.1Vで動作していました。名称からも推測できるように、低電圧版及び超低電圧版のPentiumIIIはコア電圧を下げることで低消費電力を実現したもので、これは従来のモバイルPentiumIIIの中から、低いコア電圧でも動作するものを選別しているものと思われます。駆動周波数を下げることによりパフォーマンスは低下しますが、コア電圧が低くなっているために大幅に消費電力を削減することに成功しています。しかし、これはプロセッサの構造としては結局のところ従来と変わらないため、消費電力低減へのアプローチとしては消極的であるといわざるを得ません。先進性という面ではCrusoeの方が優れているといえるでしょう。
Crusoeだけに当てはまることではないのですが、仮にCPUの消費電力が10分の1になったからといって、モバイルPCのバッテリー駆動時間が10倍に延びるわけではありません。電力を消費するのはCPUだけではないからです。CPUの消費電力が10分の1になったとしても、もともとCPUがPC全体の消費電力のわずかしか占めていないような状況であれば、劇的な効果は望めないわけです。このためCrusoeを採用することにより、実際のバッテリー駆動時間がどの程度延ばせるのかという点は曖昧だったのですが、低消費電力というイメージもあり、日本国内の市場では瞬く間に軽量ノートPC用のプロセッサとして定着しました。
Transmetaという、AT互換機のCPUメーカーとしては全くの新参である企業から発売された、Crusoeのような実績のない新規の製品がこのような短期間で認知され、多くのPCメーカーに採用されるというのは非常に珍しいことです。こういった新規参入が成功するためには、次のいずれかの条件を満たしている必要があります。すなわち、他社製品と比較して圧倒的な性能を持っているか、あるいはよほど画期的な特徴を持っているかです。Crusoeの場合は後者でした。低消費電力を実現するためのその構造は革新的であったといえるでしょう。パフォーマンス第一のプロセッサ市場において、このような方向性の製品が現れることを予想していた人は少なかったのではないでしょうか。さらに、Transmetaという、それまで全くx86互換CPUを開発していなかったメーカーによる新しい提案が多くのメーカーに受け入れられたことは驚きに値します。
Crusoeはそれまで市場でモバイルPentiumIIIやモバイルCeleronが占めていた位置に、迅速に食い込みました。Intelとしても、これほど急激にシェアを奪われるとは思っていなかったことでしょう。この製品はAT互換機の歴史上、最も成功した伏兵だったといえるのかもしれません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| Crusoe | |
| 動作電圧 | Vio 2.5V Vcore 1.10-1.65V可変(LongRun) |
| FSB | 133MHz? |
| L1キャッシュ | 64KB Instruction,64KB Data 8-Way set associative(both) |
| L2キャッシュ | 256KB |
| 特殊命令 | Code Morphing Softwareに依存 |
| 命令デコード形式 | Code Morphing |
| パイプライン | 整数7段、浮動小数点10段 |
| 最大同時実行命令数 | 4 |
| 製造プロセス | 0.18μm |
| TDP | 〜6.4W |